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仕事現場において、車両や重機に轢かれたり、労働者が機械や物と激突したりする類型の労災事故は、様々な業種において、一定割合で発生しています。なかでも、建設業や林業などの現場では比較的発生しやすいといえるでしょう。
例えば、他の従業員が運転して後退してきたトラックやブルドーザー、フォークリフト等に労働者が轢かれる事故、旋回させていた掘削機のバケットが周辺にいた労働者に激突する事故、トラッククレーンのブームが落下して労働者に激突する事故などがあります。
このような事故の類型においては、重量のある機械等が労働者に激突するため、怪我の程度も深刻になることが多く、重度の後遺障害が残存してしまったり、お亡くなりになったりすることも珍しくありません。
今回は、仕事中に車両や重機に轢かれたり激突されたりする事故に遭ってしまった時の対応について解説します。
会社、元請けに対する損害賠償が可能なケースも
重篤な後遺障害を負ったり、お亡くなりになることが多いこの「ひかれた・激突事故」では、労災保険給付で相応の補償(数百万円から数千万円)がなされることが少なくありません。
また、労働現場の管理責任について「安全配慮義務違反(労働者が安全で健康に働くことができるように配慮する義務)」や「不法行為責任(事故の原因が企業の活動そのものを原因とするような場合や、労働現場の建物・設備に危険があった場合などに認められる責任)」などを根拠として勤務先会社・元請に対して多額の損害賠償請求が認められるケースも多くあるのです。
特にこの「ひかれた・激突事故」の場合で、会社に一切の過失がないケースというのは、むしろ相当に珍しいといえ、ほとんどの場合、会社には何がしかの注意義務違反や不法行為責任を負うといってよいと思われます。
しかしながら、このことを知らずに、労災保険からの給付のみを受け取って「一件落着」と考えて終えてしまっている被害者の方が多いのもまた事実です。
重篤な被害に遭ってしまっている以上、正当な補償・賠償を受けるべきです。
労災申請による労災保険給付
仕事中に事故に遭ったときは、労災申請をしましょう。
労災保険は、労働者災害補償保険法に基づき、業務上の災害や通勤による労働者の負傷、疾病、障害、死亡等に対して行われる保険給付制度であり、労災が認定されると療養補償給付等の労災保険を受給することができます。
前述のように、車両や重機に轢かれたり激突されたりする事故においては、重症を負うことが多く、お亡くなりになったりすることも珍しくないため、労災保険の受給が大変重要になってきます。
主な労災保険給付の内容は次のとおりです。
療養(補償)給付
仕事や通勤が原因で負傷したり疾患にり患してしまった場合、労災病院等の指定医療機関において、無料で治療を受けることができます。また、やむを得ず指定医療機関以外で治療を受けた場合でも、いったん立て替える必要はありますが、後で請求することで、負担した費用の支給を受けることができます。なお、療養(補償)給付は症状固定になるまで受けることができます。
休業(補償)等給付
労災事故による療養のために仕事をすることができず、賃金を受けていない場合には、休業(補償)等給付を受けることができます。休業(補償)等給付の金額は、給付基礎日額×60%の休業(補償)給付と、給付基礎日額×20%の休業特別支給金をあわせると、給付基礎日額×80%の金額を受けることができます。給付基礎日額は、事故直前3か月分の賃金を暦日数で割る方法により計算されます。
なお、休業(補償)等給付を受けることができるのは、休業第4日目からです。
障害(補償)等給付
労災による負傷や疾病が治り、身体に一定の障害が残ったときには、その障害の程度に応じて障害(補償)等給付が支給されます。
後遺障害等級は第1級から第14級まであり、受給できる金額も等級に応じて異なります。
轢かれたり激突したりという事故においては、高い後遺障害等級が認定されることもしばしばです。
遺族(補償)等給付
労災事故によって被災労働者が死亡した場合、当該労働者の遺族に対し、遺族(補償)等給付が支給されます。遺族(補償)等給付には、遺族(補償)等年金と、遺族(補償)等一時金があります。
遺族(補償)等年金は、被災労働者の死亡当時、その収入によって生計を維持されていた配偶者・子・父母・孫・祖父母、兄弟姉妹(妻以外の遺族については、被災労働者の死亡当時に一定の高齢又は年少であるか、あるいは一定の障害の状態にあることが必要となります)が受給資格者となります。被災労働者の死亡当時、遺族(補償)等年金を受ける遺族がいない場合等には遺族(補償)一時金が支給されます。
なお、被災労働者の葬祭を行った遺族に対しては、葬祭料(葬祭費用)が支給されます。
会社、元請に対する損害賠償
重篤な後遺障害が残ったり、お亡くなりになったりすることも珍しくない「轢かれた」「激突した」といった労災事故では、比較的高額の労災保険給付がなされることも少なくありません。しかし、高額の労災保険給付が支給されても、労災保険からの保険給付だけでは、被災労働者が被った損害の全てが補填されるわけではありません。
労災事故が発生して負傷した場合、勤務先の会社や現場を指揮監督していた元請に対して「安全配慮義務違反」や「不法行為責任」が認められることも多く、これらを根拠として、勤務先会社や元請に対して多額の損害賠償請求が認められるケースもあります。この損害賠償は、労災保険を受給していても請求することができます。
特に、車両や重機に轢かれたり、労働者が機械や物と激突したりする類型の労災事故については、勤務会社や元請に何らかの責任があることが多いので、労災保険を受給して終わりとするのではなく、会社や元請に対する損害賠償請求の検討も忘れないようにしましょう。
他の従業員のミスにより負傷した場合の損害賠償
車両や重機に轢かれたり、労働者が機械や物と激突したりする事故は、同じ現場で作業していた他の従業員のミスもその一因となっていることがほとんどです。
このような場合、ミスをしてしまった当該従業員に対しても損害賠償を請求することができます(民法709条)。
一方、使用者である会社は、他の従業員がその事業の執行について被災労働者に加えた損害を賠償する責任を負います(使用者責任・民法715条)。
また、他の従業員が社用車を運転して被災労働者を轢いてしまったような場合には、自賠責法3条の運行供用者責任を負うこともあります。
このように、ミスをしてしまった従業員個人に対して損害賠償請求をすることもできますが、当該従業員個人には多額の損害賠償金を支払う資力がないことが多く、現実にはほぼ勤務先の会社が損害賠償金を支払うことになります。
労災事故に遭ったら早めの相談を
労災事故は前触れもなくある日突然発生することがほとんどです。しかし、労災事故に遭うこと自体初めての方が多く、いざ労災事故に直面すると、何から始めていいのか、これからどうすればいいのか全く分からないという方が多いと思います。
特に重傷を伴う労災事故の場合、治療費や今後の生活に対する不安も大きいことでしょう。
また、労災保険制度や会社・元請に対する損害賠償請求は複雑な手続きで、専門的な知識を必要とすることも多く、労災事故の治療等を続けながら被災労働者自身が対応することは困難を伴います。
中でも、会社・元請に対する損害賠償請求をするためには、労災事故に関する資料を収集することになりますし、会社・元請の主張に対して法的根拠に基づいた反論をする必要もあります。
労災問題に精通した弁護士は、労災保険制度や損害賠償請求についても熟知しておりますので、ご相談いただければ、労災申請や会社・元請に対する損害賠償請求について個別具体的なアドバイスを受けることができ、疑問や不安も解消することができるでしょう。
また、弁護士に依頼をした場合は、会社・元請に対する損害賠償も被災労働者に代わって行ってもらうことができるため、被災労働者は治療等に専念することができます。
車両や重機に轢かれた、労働者が機械や物と激突したといった労災事故に遭われてお困りの方は、お早めに労災問題に精通した弁護士にご相談ください。