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労災事故~セクハラ・パワハラ【弁護士が解説】

ハラスメントを原因として,心身の不調を来してしまうことがあります。

本項目では,ハラスメントを原因としたうつ病で労災認定を受ける方法について解説していきたいと思います。

まず,ハラスメントの内容について解説していきます。

パワハラについて

定義

厚生労働省においては,以下の3つの要件をすべて満たすものが,職場におけるパワーハラスメントであると定義しています。(令和2年1月15日厚生労働省告示第5号)

https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000605661.pdf

「職場において行われる」

・優越的な関係を背景とした言動であって

・業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより

・労働者の就業環境が害されるもの

なお,客観的にみて,業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導については,職場におけるパワーハラスメントには該当しないとされています。

「職場」とは?

事業主が雇用する労働者が業務を遂行する場所を指し,当該労働者が通常が就業している場所以外の場所であっても当該労働者が業務を遂行する場所は「職場」に含まれます。

「労働者」とは?

いわゆる正規雇用労働者のみならず,パートタイム労働者,契約社員等いわゆる非正規雇用労働者を含む事業主が雇用する労働者の全てであるとされています。

分類

厚生労働省は,パワハラについて,以下のように分類されるとしています。

・身体的な攻撃(暴行・傷害)

・精神的な攻撃(脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言)

・人間関係からの切り離し(隔離・仲間外し・無視)

・過大な要求(業務上明らかに不要なことや追行不可能なことの強要・仕事の妨害)

・過小な要求(業務上の合理性なく能力や経験をかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと)

・個の侵害(私的なことに過度に立ち入ること)

セクハラとは?

定義

厚生労働省では,「職場」において行われる,「労働者」の意に反する「性的な言動」に対する労働者の対応によりその労働者が労働条件について不利益を受けたり,「性的な言動」により就業環境が害されることが,職場におけるセクシュアルハラスメントであると定義しています。

「職場」とは?

パワハラの項目と同じになります。

「労働者」とは?

パワハラの項目と同じになります。

「性的な言動」とは?

性的な内容の発言及び性的な行動を指し,具体例としては以下のようなものであるとされています。

・性的な発言

性的な事実関係を尋ねること,性的な内容の情報(噂)を流布すること

性的な冗談やからかい

食事やデートへの執拗な誘い

個人的な性的体験談を話すことなど

・性的な行動

性的な関係を強要すること

必要なく身体へ接触すること

わいせつ図画を配布・掲示

強制わいせつ行為・強姦など

※事業主,上司,同僚に限らず,取引先,顧客,患者,学校における生徒などもセクシュアルハラスメントの行為者になり得るものであり,男性も女性も加害者にも被害者にもなり得るとされています。

※職場におけるセクシュアルハラスメントには,同性に対するものも含まれます。

また,被害を受ける者の性的指向(人の恋愛・性愛がいずれの性別を対象とするか)や性自認(性別に関する自己意識)に関わらず,性的な言動であれば,セクシュアルハラスメントに該当するとされています。

分類

職場におけるセクハラには,一般に,以下の2種類があるとされています。

対価型セクシュアルハラスメント

労働者の意に反する性的な言動に対する労働者の対応(拒否や抵抗)により,その労働者が解雇,降格,減給,労働契約の更新拒否,昇進・昇格の対象からの除外,客観的に見て不利益な配置転換などの不利益を受けること

環境型セクシュアルハラスメント

 労働者の意に反する性的な言動により労働者の就業環境が不快なものとなったため,能力の発揮に重大な悪影響が生じるなどその労働者が就業する上で看過出来ない程度の支障が生じること

ハラスメントを原因とした心身の不調

パワハラやセクハラ等のハラスメントを受けた場合には,強度な心理的負荷がかかることが予想されますので,その結果うつ病などを発症してしまうこともありえます。

それでは,このように職場で受けたハラスメントが原因で心身の不調を来してしまった場合に,労災認定を受けるためには,どのようにしたら良いでしょうか?

精神疾患の労災認定の基準

精神疾患は、仕事のみならず私生活上も含めた様々な要因で発病します。

そのため、精神疾患が労災認定されるのは、単にストレスがかかる仕事をさせられたというだけではなく、その発症が仕事による強いストレスによるものと判断できる場合に限定されています。

また、仕事上のストレスが強かった場合でも、それと同時に私生活上の強いストレスがある場合には、何が精神疾患の原因になっているのか、慎重に判断されることとなっています。

そして、厚生労働省は、精神疾患が業務によるものかどうかを判断するための労災認定要件として、次の3つの要件を定めています。

特定の精神疾患を発病したこと

まずはじめに、(うつ病を含む)「気分障害」、「統合失調症」などの精神疾患を発病したことが必要です。そのため、医師に診断書を書いてもらい、その記載内容によって労災認定の対象疾病を発病したことを証明します。

また、医師が病名として記載すれば必ず認められるというものではなく、診療録等の関係資料や、申請者本人・関係者からの意見聴取などを通じて事実確認を行い、総合的に発病の有無や発病時期が認定されます。

②対象となる精神障害を発病していること

労災認定基準の対象となる精神障害は、疾病及び関連保険問題の国際統計分類第10回改訂版(ICD-10)第Ⅴ章「精神および行動の障害」に分類される精神障害のうち、頭部外傷等の器質性の障害及び薬物等の有害物質による障害を除いたものとされています。

このうち、業務に関連して発症する可能性のある精神障害は、主にICD-10のF2からF4に分類される精神障害とされており、統合失調症、双極性感情障害(躁うつ病)、急性ストレス反応などがあります。

なお、器質性の障害や有害物質に起因する精神障害については、頭部外傷、脳血管障害、中枢神経変性疾患等の器質性脳疾患に付随する疾病や化学物質による疾病等として認められるか否かを個別に判断するとされています。

また、心身症は、精神障害の労災認定基準の対象となる精神障害には含まれません。

対象疾病の発病の有無や診断名は、「ICD-10 精神及び行動の障害臨床記述と診断ガイドライン」に基づき、主治医の意見書や診療録等の関係資料、被災労働者や関係者からの聴取内容等の情報に基づき、医学的に判断されます。

③対象となる精神障害の発病前おおむね6か月の間に、業務による強い心理的負荷が認められること

対象となる精神障害の発病前おおむね6か月の間に、業務による強い心理的負荷が認められることが要件となっているため、対象となる精神障害の発病時期も重要です。
対象となる発病時期についても、「ICD-10 精神及び行動の障害臨床記述と診断ガイドライン」に基づいて判断され、その特定が難しい場合には、心理的負荷となる出来事との関係等を踏まえて、できる限り時期の範囲を絞り込んだ医学意見を求めて判断されることとなっています。

業務による強い心理的負荷の有無は、「業務による心理的負荷評価表」に基づいて判断され、同評価表により「強」と判断される場合には、業務による強い心理的負荷が認められます。

業務による心理的負荷評価表の「特別な出来事」に該当する場合には、心理的負荷の総合評価が「強」と評価されます。

「特別な出来事」には、生死にかかわる、極度の苦痛を伴う、又は永久労働不能となる後遺障害を残す業務上の病気や怪我をしたことをはじめとする、心理的負荷が極度の類型や、発病直前の1か月におおむね160時間を超えるような、又はこれに満たない期間にこれと同程度の(例えば3週間に概ね120時間以上の)時間外労働を行ったといった極度の長時間労働の類型があります。

「特別な出来事」に該当する出来事がない場合は、出来事と出来事後の状況の全体を検討して総合評価を行い、心理的負荷の強度を評価することになります。
具体的には、実際に起こった出来事が、心理的負荷評価表の「具体的出来事」のうち、どれに該当するか(またはどれに近いか)をあてはめ、あてはめた「具体的出来事」の欄に示されている具体例の内容に、事実関係が合致する場合には、その強度で判断します。
事実関係が具体例に合致しない場合には、「心理的負荷の総合評価の視点」の欄と「総合評価の留意事項」に示す事項を考慮し、個々の事案ごとに評価することになります。
なお、具体例はあくまでも具体例であるため、具体例で「強」とされているもの以外は「強」にならないというわけではありません。

出来事が複数あり、単独の出来事では「強」と評価できない場合、複数の出来事が関連して生じたときは、その全体をひとつの出来事として評価します。一方、関連しない出来事が複数生じたときには、それらの出来事の近接の程度、各出来事と発病との時間的な近接の程度、継続期間等を考慮して全体を総合的に評価することになっています。

長時間労働等の心理的負荷の評価

前述のとおり、発病直前の1か月におおむね160時間を超える時間外労働を行った場合等には、極度の長時間労働に従事したとして、心理的負荷の総合評価が「強」となります。

また、発病直前の2か月間連続して1月あたりおおむね120時間以上の時間外労働を行った場合、発病直前の3か月間連続して1月あたりおおむね100時間以上の時間外労働を行った場合、転勤して新たな業務に従事し、その後1か月おおむね100時間の時間外労働を行った場合等のときも、心理的負荷の総合評価が「強」とされます。

業務以外の心理的負荷や個体側要因により発病したとは認められないこと

精神障害で労災認定がされるためには、当該精神障害が業務以外の心理的負荷や個体側要因により発病したとは認められないことも必要になってきます。

業務以外の心理的負荷による発病かどうかは、「業務以外の心理的負荷評価表」を用いて、心理的負荷の強度を評価します。

考慮される出来事としては、被災労働者自身の出来事、被災労働者以外の家族・親族の出来事、金銭関係、事件・事故・災害の体験、住環境の変化、他人との人間関係といったものがあります。

個体側要因による発病かどうかについては、精神障害の既往歴やアルコール依存状況などがある場合に、その内容等について確認され、顕著な個体側要因がある場合には、それが発病の原因であるといえるか、慎重に判断されます。

会社等に対して損害賠償請求ができることも

上記のように、仕事が原因で精神疾患にり患したと判断され、労災認定がされると、療養(補償)給付をはじめとする労災保険給付を受給することができます。

また、精神疾患にり患したことについて、勤務先の会社に安全配慮義務違反が認められる場合には、その会社に対して慰謝料等の損害賠償を請求することもできます。

さらに、精神疾患の原因が長時間労働である場合、勤務先の会社に対する損害賠償請求のみならず、未払い残業代の請求ができる可能性もあります。

まずは一度ご相談ください

仕事が原因で精神疾患にり患したとしても、その原因が仕事であることを理解してもらうのは容易ではありません。
精神疾患は一見して治療状況が分かるものでもなく、いつになったら治るのか、予測することも難しいでしょう。

一方で、精神疾患のために仕事をすることができなくなれば、収入面でも不安になってきます。
仕事が原因で精神疾患にり患したということであれば、労災認定を受けられることがあります。また、そのことについて、会社に義務違反があれば、会社に対して損害賠償を請求することができ、長時間労働が原因の場合には未払い残業代も請求できるかもしれません。

仕事が原因で精神疾患にり患された方につきましては、お早めに労災問題に精通した弁護士にご相談ください。