建設現場で最も多い事故の類型は墜落・転落である
建設現場は、労働災害が発生しやすい環境の一つです。
その中でも、最も多い事故の類型として挙げられるのが「墜落・転落」です。
厚生労働省のデータによれば、平成30年から令和5年までの間、建設現場で発生した死亡災害の約3割が墜落・転落事故によるものとなっています。
特に、高所での作業が日常的に行われる建設現場では、足場や屋根、はしごなどからの落下が重大な災害につながりやすいという特徴があります。
これらの事故は、安全帯の未使用、足場の不備といった基本的な安全管理の問題から発生していることも多いです。
墜落・転落事故は、作業員の命を脅かすだけでなく、現場全体の安全管理体制の不備を浮き彫りにする重大な問題です。
本コラムでは、建設現場での墜落・転落事故の実態や対策について詳しく解説していきます。
建設現場における労災の主な原因
建設現場は、作業の性質上、危険が伴う環境での業務が多いため、事故が発生しやすい状況にあります。
建設現場における労災の主な原因には以下のようなものが挙げられます。
安全対策の不備
建設作業現場で親綱支柱・親綱の設置が不十分であったり、安全帯が適切に使用されていなかったりすると、墜落・転落事故が発生するリスクが高まります。
また、古い足場や不安定な作業台などの設備不良も労災の要因となります。
作業環境の問題
建設現場では、天候や視界の悪化、騒音などの影響で作業が危険な状態になることがあります。
例えば、雨天時には足場が滑りやすくなり、作業員が転倒するリスクが高まります。
作業員の教育不足
安全教育が不十分な場合、作業員が高所作業のリスクや適切な安全具の使い方を理解していないことがあります。
これにより、作業ミスが発生して事故につながるケースも少なくありません。
墜落・転落とは
「墜落」や「転落」という言葉には、高いところから落ちるというイメージを持たれている方が多いと思います。
墜落・転落による事故は、厚生労働省が労災事故として分類している事故の型の一つです。
厚労省によると下記の通りとされています。
「墜落・転落」について、人が樹木、建築物、足場、機械、乗物、はしご、階段、斜面等から落ちることをいう。
乗っていた場所がくずれ、動揺して墜落した場合、砂ビン等による蟻地獄の場合を含む。車両系機械などとともに転落した場合を含む。交通事故は除く。
感電して墜落した場合には感電に分類する。
建設現場における墜落事故・転落事故のケース
屋根の塗装作業中、墜落し死亡
ある建設現場では、作業員が屋根の塗装作業中に墜落し、死亡した事故が発生しました。原因として、安全帯を適切に装着していなかったことが挙げられています。
また、足場が不十分で、作業環境が安全ではなかった点も事故の要因とされています。
ケーブルクレーンの架線作業中、斜面を転落し死亡
別の現場では、ケーブルクレーンの盛り替え作業を行っていた作業員がバランスを崩し、転落して死亡する事故が起きました。
滑り止め措置が不十分だったことや、作業指揮者が作業の指揮をとっていなかったこと等が問題視されています。
安全対策が十分でなければ会社に責任がある可能性が高い
労働契約法には、使用者が、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をする義務(安全配慮義務)が課されています。
また、労働安全衛生法にも、労働災害の発生の防止に関する事業者の責務が定められています。
建設現場における具体的な義務の一例は次のとおりです。
・足場の設置
・安全帯や命綱の使用を徹底させる
・作業員への安全教育の実施
これらの義務が十分に果たされていない場合、会社に対して損害賠償責任を追及することができる可能性があります。
特に、安全装置に不備があったり、リスクのある環境で作業を強いられていた場合、会社に対する責任が認められる可能性も高まります。
建設業における主な安全対策
建設現場での労災事故を防ぐためには、以下のような安全対策が求められます。
足場の設置と点検
安定した足場を設け、定期的に点検を行うことで墜落事故を防ぐことができます。
安全帯や命綱の使用
高所作業では、安全帯を確実に装着し、命綱を使用することで墜落による労災事故の発生を防止します。
滑り止め措置
斜面や滑りやすい場所での作業では、滑り止め材を使用することで転倒を防止します。
足場からの墜落防止措置の強化
近年、労働安全衛生規則の改正により、建設現場では足場からの墜落防止措置が強化されています。例えば、足場の設置基準が見直され、作業員の安全をより確実にするための措置が追加されています。
会社への損害賠償請求も検討
労災保険からは、療養補償給付や休業補償給付、障害補償給付といった労災保険給付を受けることができます。
しかし、労災保険からは慰謝料等は支払われず、事故による損害をすべてカバーすることができるわけではありません。
労災事故の発生について会社に責任がある場合、安全配慮義務違反などを根拠として、会社に対し、損害賠償を請求することができます。
会社に対する損害賠償請求では、以下のような損害項目を請求します。
・慰謝料
・将来的な収入減に対する補償(逸失利益)のうち、障害補償給付では補償されない部分
・休業損害のうち、休業補償給付では補償されない部分
会社に対して損害賠償を請求する際には、会社側から会社の責任の有無や過失相殺に関する主張をされることが多く、法的な根拠に基づいた反論をすることが重要になります。
一度ご相談ください
建設現場で労災事故に遭い、会社に対する損害賠償請求を円滑に進めるには、専門的な知識も必要となります。
労災問題に注力した弁護士にご相談いただくことで、会社に対する損害賠償請求についての具体的なアドバイスを受けることができます。
また、弁護士に依頼することで、会社に対する損害賠償請求を代わりに行ってもらうことができます。
弁護士法人晴星法律事務所では、労災問題に注力した弁護士が全力で対応させていただきますので、建設現場における労災問題でお困りの方は、是非一度ご相談いただければと思います。