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自分のミスが原因の労災事故について

労災事故が発生すると,被害者は「自分のミスが原因だから,労災の請求はできない」と思い込んでしまうことが少なくありません。

しかし、実際にはこれは大きな誤解です。

たとえ自分に過失があったとしても,会社側の管理体制に問題があれば,労災の請求や会社に対する損害賠償請求を行うことができる場合があります。

この記事では,そのような場合について詳しく説明します。

自分のミスでも「労災」になる

労災は業務中(「業務災害」)または通勤中(「通勤災害」)に発生した事故に対して適用されるものであり(労働者災害補償保険法7条),事故の原因が労働者自身のミスであっても,労災として認定されます。

これは、労災保険の対象となる「業務災害」や「通勤災害」の判断に際しては,労働者の過失の有無が問われていないためです。

このように,労働者の過失の有無を問わないのは,労働災害は,企業の営利活動に伴う現象であるため,企業活動によって利益を得ている使用者に,当然に損害の補償を行わせることによって,労働者を保護すべきであるという考え方があるからです。

例えば,機械の操作を誤った結果,手を怪我した場合でも,その負傷が「業務上」であれば,労災として認定されるのです。

自分のミスによる労災でも損害賠償請求ができる

労災保険と損害賠償請求

自分のミスが原因であっても,会社に対して損害賠償請求ができるでしょうか。

労災保険は,精神的苦痛に対する慰謝料や,休業補償による平均賃金の8割を超える部分などは,労災保険によっては支払われません。

そのため,このような,労災保険によって補償されない範囲については,会社に対して,民事上の損害賠償請求を行い,賠償してもらうしかありません。

このような制度となっているのは,労災保険は,被災労働者の全損害のうち一部分を簡易迅速に補償する制度として出発していることにあります。

民事上の損害賠償請求

民事上の損害賠償請求が認められるためには,会社に安全配慮義務違反(債務不履行構成)ないし注意義務違反(不法行為構成)が認められないといけません。

また,被災労働者の負傷や疾病が業務従事によって生じたこと,すなわち,「業務従事と負傷・疾病との間に相当因果関係があること」も認められなければなりません。

「安全配慮義務」とは,「ある法律関係に基づいて特別な社会的接触の関係に入った当事者間において,当該法律関係の付随義務として当事者の一方または双方が相手方に対して信義則上負う義務」のことです。

この義務が存在については,労働契約法5条にも明記されています。

「注意義務違反」とは,本件労災について会社に過失があること,すなわち,会社に本件労災について予見義務を前提とした結果回避義務違反が存在することをいいます。

被災労働者は,本件労災について,具体的な安全配慮義務や予見義務に基づく結果回避義務の内容を特定し,かつその義務違反に該当する事実を主張・立証しなければならないのです。

また,業務従事と負傷・疾病との間に相当因果関係の存在についても,主張・立証責任は,被災労働者にあります。

このように,民事上の損害賠償請求においては,被災労働者に主な立証責任があるのです。

過失相殺

会社に対する民事上の損害賠償請求をする場合には,これらの,安全配慮義務違反や注意義務違反,業務遂行と負傷・疾病との相当因果関係を主張・立証しても,それだけで損害賠償額が確定するとは限りません。

なぜなら,被災労働者に過失がある場合について,民法は「債務の不履行又はこれによる損害の発生若しくは拡大に関して債権者に過失があったときは,裁判所は,これを考慮して,損害賠償の責任及びその額を定める」(418条(安全配慮義務違反の場合),)「被害者に過失があったときは,裁判所は,これを考慮して,損害賠償の額を定めることができる」(民法722条2項(注意義務違反の場合))と定めているからです。

これらの規定に基づき行われる損害賠償額の減額を「過失相殺」といいます。

被災労働者の過失は,この過失相殺によって判断されるのです。

例えば,被災労働者が自殺した事案において,労働者の健康状態を告知しなかった被災労働者の遺族に過失があるとして,損害額を7割減じることが認められています(和歌山地方裁判所平成14年2月19日判決)。

ただし,近時の裁判例においては,被災労働者が会社に対し,神経科の医院への通院,その診断に係る病名,神経症に適応のある薬剤の処方等の情報を上司や産業医等に申告しなかったことを理由として過失相殺を認めた原審(東京高等裁判所平成23年2月23日判決)に対して,

「自らの精神的健康(いわゆるメンタルヘルス)に関する情報は,…労働者にとって,自己のプライバシーに属する情報であり,人事考課等に影響し得る事柄として通常は職場において知られることなく就労を継続しようとすることが想定される性質の情報であったといえる。」

「使用者は,…労働者にとって過重な業務が続く中でその体調の悪化が看取される場合には,上記のような情報については労働者本人からの積極的な申告が期待し難いことを前提とした上で,必要に応じてその業務を軽減するなど労働者の心身の健康への配慮に努める必要があるものというべきである」

として,被災労働者が健康診断において頭痛やめまい,不眠等を申告していたことや,業務の軽減の申出,頭痛等の体調不良が原因であることを上司に伝えた上で相当数の欠勤が繰り返し行われていたことを踏まえ,過失相殺の適用を否定しています(最高裁判所平成26年3月24日判決)。

過失相殺の類推適用

また,被災労働者に過失がないとしても,被災労働者の損害について,被災労働者の性格や心因的要素(これらを「素因」といいます。)が損害の発生に寄与している場合には,公平の観点から,損害賠償額を定めるにあたって,過失相殺の規定が類推適用される場合があります。

以下では,いくつかの裁判例をお示しします。

ア 治療拒否・病状の申告なし

脳梗塞による業務遂行中の死亡事案につき,

「業務によって蓄積した疲労のみを原因とするものではなく,太郎の心房細動(の素因),高脂血症及び飲酒といった身体的な素因や生活習慣もその原因となっており,とりわけ,太郎の脳梗塞は心原性のものでありその発症に心房細動が大きく関与したものと考えられる」

と認められる事案において,

「健康の保持自体は,業務を離れた労働者個人の私的生活領域においても実現されるべきものであるから,…労働者自身も日々の生活において可能な限り健康保持に努めるべきであることは当然である」

として,

「心房細動等により治療を必要とするとの所見を医師から示されており,…上記検診で指示された治療等を受けるべきであったというべきであり,他方で,それが困難な状況にあったとは証拠上認められない」

「太郎は,上記事故に遭ったことや平成8年5月25日までの同事故に起因する症状等について,使用者である一審被告に対して一切報告しないまま25日に就労したものであり(弁論の全趣旨),太郎の年齢,経験年数及び職務上の立場に照らしても,また,証拠上も上記報告が困難であったと窺える特段の事情は認定できない」

として4割の素因減額を認めている。

イ 本人の性格・心因的要素

うつ状態となり自殺に至った事案につき,

「自殺は、通常は本人の自由意思に基づいてなされるものであり,春子のような仕事の重圧に苦しむ者であっても,その全員あるいはその多くの者がうつ状態に陥って自殺に追い込まれるものではないことはいうまでもなく,本件のような場合においても自殺する以外に解決の方法もあったと考えられ(現に,春子自身も,他の保育所等に就職して従来と同種の仕事を続けることを考えたうえで,前記のとおり被控訴人園を退職している。),春子がうつ状態に陥って自殺するに至ったのは,多分に春子の性格や心因的要素によるところが大きいものと考えられるところである」

として,8割の素因減額を認めている。

会社への損害賠償請求をする方法

労災事故が発生し,会社に対して損害賠償請求を行うためには,まずは事故の詳細を正確に記録し,証拠を集めることが重要です。

事故が発生した現場の状況や,作業中の状況を写真やメモとして残しておくことが有効です。

また,事故を目撃した同僚の証言を確保しておくことも強力な証拠となります。

弁護士に相談を

労災事故に遭った場合,自分に過失があるからといって請求を諦めてはいけません。

労災保険の適用に,自分の過失の有無は判断事項とはされていませんし,民事上の損害賠償請求においても,請求自体は可能な場合が多いからです。

ただし,過失の有無の判断や過失相殺の割合などは,複雑な事実関係を積み上げた上で,法律という専門的知見に基づく評価により行われます。

このため,適切な賠償額の獲得には専門家である弁護士のサポートが欠かせません。

自分に過失があったとしても,労災請求や損害賠償請求を行うことは可能ですので,一人で悩まず,まずは弁護士に相談することをお勧めします。