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労災事故直後・治療中にすべきこと
はじめに
業務中に労災事故に遭い、負傷してしまった場合は、怪我を治すためにも病院等で治療をすることが最優先です。もっとも、労災事故に遭うこと自体初めての方も多く、この先どうすればいいのか不安に思う方も少なくありません。
そこで、労災事故に遭って負傷してしまったときの対応について解説します。
早期に適切な治療や検査を受けましょう
労災事故に遭って負傷された場合は、事故後速やかに病院で治療を受けてください。
事故直後に病院に行かず、何日も経って初めて病院に行っても、その怪我が労災事故によって生じたものかどうか分からなくなる恐れがあります。受診時には、少しでも異常があると感じたことも、きちんと医師に伝えるようにしましょう。
また、早期に病院に行って適切な治療をすれば早く治ったにもかかわらず、治療が遅れたことによって治療に長い期間を要したり、重度の後遺障害が残ったりしてしまう可能性も否定できません。痛みがある個所については、担当医と相談の上、CTやMRIといった検査を受けておくことも重要です。
治療費等の負担軽減のためにも、労災申請を
労働者が、業務や通勤が原因で負傷したり、病気にかかってしまった場合、療養(補償)給付をはじめとする労災保険給付の支給を受けることができます。
療養補償給付が支給されると、ほとんどの場合、治療費関係費の負担はなくなりますが、そのためには、労働基準監督署に労災申請をして、認定される必要があります。
療養補償給付等の労災申請は、勤務先の会社が被災労働者に代わって必要書類の提出等をしてくれることも多いですが、会社が協力してくれないときには被災労働者自身で行うこともできます。
会社によっては、会社に責任がないので労災事故ではないなどと主張し、労災申請をさせないようにすることもあります。また、会社から治療費や休業損害は支払うから労災申請はしないでほしいと言われることもあります。
しかし、労災事故かどうかを判断するのは会社ではありません。会社が労災事故ではないと主張しても、労災申請をすれば認定されることも珍しくありません。また、会社が治療費や休業損害を支払うと言ったとしても、いつまで支払ってくれるのか不明確で、治療が終わっていないにも関わらず会社側から怪我は治ったと主張され、治療費等の支払いが打ち切られる可能性もあります。
適切な期間、治療費等の支払いを受けるためにも、労災申請をしておくようにしましょう。
また、事故状況を労働基準監督署に早期に報告し、労働基準監督署の調査を経ておくことで、将来、会社に対して損害賠償を請求する際の資料にもなり得ます。
療養(補償)等給付の申請手続
療養(補償)等給付には、「療養の給付」と「療養の費用の給付」があります。
「療養の給付」は、労災病院等の指定医療機関等において、無料で治療や薬剤の給付を受けることができます(現物給付)。
一方、「療養の費用の給付」は、指定医療機関等以外で治療を受けた場合に、一旦立て替えた治療費等の支給を受けることができます。
療養(補償)等給付は、傷病が治ゆするまで行われますが、治ゆとは、健康時の状態に完全に回復した状態のみをいうのではなく、傷病の症状が安定し医学上一般に認められた医療を行ってもその医療効果が期待できなくなった状態(「症状固定」といいます)のことを指します。
なお、治癒したときに、後遺障害が残存した場合には、障害(補償)等給付の申請をすることができます。
「療養の給付」を請求する場合、所轄の労働基準監督署に所定の給付請求書(様式第5号。通勤災害の場合は様式第16号の3)を提出します。もっとも、この給付請求書は指定医療機関等を経由して提出するため、被災労働者が直接労働基準監督署に提出する必要はありません。
指定医療機関等を変更するときは、様式第6号(通勤災害の場合は様式第16号の4)を提出します。
「療養の費用の給付」を請求する場合は、所轄の労働基準監督署に様式第7号(通勤災害の場合は様式第16号の5)を提出します。療養の費用の給付は被災労働者が一旦立て替えた費用を請求するため、原則として、被災労働者が治療費等を支払ったことが分かる領収書等も添付することになっています。
なお、薬局から薬剤の支給を受けたときには、様式第7号⑵(通勤災害の場合は様式第16号の5⑵)を、柔道整復師から手当を受けたときは様式第7号⑶(通勤災害の場合は様式第16号の5⑶)を、はり師・きゅう師・あん摩マッサージ指圧師から手当を受けたときは様式第7号⑷(通勤災害の場合は様式第16号の5⑷)を提出します。
仕事を休んだ場合は休業(補償)等給付の申請も
労働者が業務災害又は通勤災害で負傷して働くことができず、賃金をもらっていないときには、休業の第4日目から休業(補償)等給付の支給を受けることができます。
給付の内容は、休業(補償)等給付として、給付基礎日額の60%×休業日数と、給付基礎日額の20%×休業日数です。
給付基礎日額とは、原則として、労働基準法の平均賃金に相当する金額をいい、平均賃金とは、原則として、労災事故が発生した日または医師の診断によって疾病の発生が確定した日(賃金締切日があるときは傷病発生日の直前の賃金締切日)の直前3か月間に被災労働者に対して支払われた賃金の総額(ボーナス等を除く)を、当該期間の暦日数で割った1日当たりの賃金額です。
なお、給付基礎日額は、賃金水準が変動した場合、その変動率に応じて増減されることがあります。また、療養開始後、1年6か月を経過した場合は、年齢階層別の最低・最高限度額が適用されます。
治療後に会社等に対して損害賠償請求をすることも検討しましょう
労災事故に遭って負傷したときは、早期に病院で治療を受けることが重要です。
また、怪我の治療費や仕事を休んだ時の収入の負担も労災認定を受けることで軽減することができます。
もっとも、労災保険からは、慰謝料等の支給を受けることはできません。労災事故の発生について勤務先の会社等に責任がある場合、労災保険から支給されない慰謝料等については、当該会社等に対して請求することになります。
勤務先の会社等に対して損害賠償を請求するためには、怪我が治った後、後遺障害が残った場合には後遺障害の認定結果が出た後に、労働局から保有個人情報開示の請求をする等により、資料を収集します。そして、収集した資料をもとに、当該会社等に対する損害賠償請求の可否を検討し、損害額を計算します。
勤務先の会社等に対する損害賠償請求は書面等で行うことが多いです。当該会社等から「会社としてはやるべきことはやっていたので、会社に責任はない」などの反論がされることも多く、それに対しては被災労働者側からも法的根拠に基づいた反論をすることが重要です。
ぜひ一度ご相談ください