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労災事故に遭って負傷したケースの中には、治療を続けたものの、事故に遭う前の状態に完全に回復することなく、後遺障害が残ってしまうことも多くあります。
このように、傷病の症状が安定し医学上一般に認められた医療を行ってもその医療効果が期待できない状態を「症状固定」といいます。
そして、症状固定以降は、治療費を賄うことができる療養(補償)等給付の支給はされなくなります。しかし、症状固定となったときに、身体に一定の後遺障害が残った場合には、障害(補償)等給付の支給を受けることができます。
障害(補償)等給付の対象となる後遺障害とは
障害(補償)等給付の対象となる後遺障害は、障害等級表に掲げられており、第1級から第14級までの等級があります。
これらの障害等級に該当しなければ障害(補償)等給付を受けることはできません。
また、これらの障害等級に該当した場合も、後述のように、認定される等級によって、支給額が大きく異なります。
障害(補償)等給付の内容
障害(補償)等給付は、後遺障害等級第1級から第7級の場合は障害(補償)等年金、障害特別支給金、障害特別年金が、第8級から第14級までの場合は障害(補償)等一時金、障害特別支給金、障害特別一時金が支給されます。
また、障害(補償)等年金を受給することになった場合は、1回に限り、年金の前払いを受けることができます(障害(補償)等年金前払一時金)。前払一時金が支給されると、障害(補償)等年金は、各月分(1年を経過した以降の分は法定利率で割り引いた額)の合計額が、前払一時金の額に達するまでの間支給が停止されます。
各等級の支給額は次のとおりです。
なお、障害特別支給金については、同一の災害によって既に傷病特別支給金を受給している場合は、その差額となります。
障害(補償)等給付の手続き
障害(補償)等給付は、所轄の労働基準監督署に対し、所定の請求書(様式第10号。通勤災害の場合は様式第16号の7)を提出して請求します。いわゆる後遺障害の申請です。その際、医師が作成した労働者災害補償保険診断書も提出します。
後遺障害の認定は、提出された診断書やCT・MRT等の画像などをもとに行われます。また、被災労働者との面談や医師への照会が行われることもあります。
そのため、障害(補償)等給付の認定の際には、労働者災害補償保険診断書の記載内容が大変重要となります。労働者災害補償保険診断書の記載に不足や誤りがないか、労働基準監督署に提出する前にしっかりと確認するようにしましょう。
なお、障害(補償)等給付の請求をしたものの、認められなかった場合や思っていたよりも低い等級しか認定されなかった場合には、審査請求や再審査請求によって不服を申し立てることもできます。しかし、審査請求や再審査請求によって結果を覆すことは非常に困難なため、当初の申請時に労働者災害補償保険診断書の内容を十分に確認し、労働基準監督署との面談にも適切に対応することが重要となります。
アフターケア制度
労災事故によって負傷し、症状固定となった後は、療養(補償)等給付は支給されなくなります。もっとも、せき髄損傷等、一定の障害が認められた場合は、必要に応じて、診察、保健指導、保健のための処置、検査を、アフターケア実施要領で定められた範囲内で費用負担なく受けることができます。
アフターケアを受けるためには、所轄の労働局長に申請する必要があり、申請できる期間は対象となる怪我や病気によって異なります。申請が認められると、アフターケア健康管理手帳が交付されます。アフターケアを受けるときには、その都度、労災保険指定医療機関の窓口でアフターケア健康管理手帳を提示します。
慰謝料等の損害賠償は勤務先の会社等に対して請求する
治療後に一定の後遺障害が残ってしまったときには、障害(補償)等給付を受けることができます。
しかし、労災保険からは、慰謝料等の支給はされません。
特に重篤な後遺障害が残るようなケースでは、慰謝料も高額になる傾向にあり、これらの慰謝料等は、労災事故の発生に責任がある勤務先の会社等に対して請求していくことになります。
もっとも、勤務先の会社等に対して慰謝料等の損害賠償を請求することができるのは、労災事故の発生について当該会社等に責任がある場合です。そのため、当該会社等の責任の有無を検討したうえで、損害賠償を請求していくことになります。
なお、勤務先の会社等に対して損害賠償を請求しても、当該会社から、会社側には責任がない等の主張をされることも多くあります。このような主張に対しては、法的根拠に基づいた反論をすることが重要です。勤務先の会社等との間で示談が成立しなければ、労働審判や民事訴訟等により損害賠償を請求していくことになります。
ぜひ一度ご相談ください
労災事故によって怪我をし、治療を続けたものの、一定の後遺障害が残ってしまった場合には、障害(補償)等給付を受けることができます。
障害(補償)等給付が受けられるかどうかで被災労働者の負担は全く変わります。また、認定される等級が1級違うだけでも、給付額は大きく異なります。
もっとも、労災事故に遭うことも、労災事故による怪我で後遺障害の申請(障害(補償)等給付の請求)をすることも初めてという方も多く、具体的にどのように対応して進めればよいのか分からないという方もたくさんおられるかと思います。
労災問題に精通している弁護士にご相談いただければ、労働者災害補償保険診断書や労働基準監督署との面談をはじめ、個別の事案に応じた具体的なアドバイスを受けることができます。
また、法的な根拠に基づいた主張や反論が必要となる勤務先の会社等に対する損害賠償請求についても、弁護士に依頼をすれば、代わりに請求してもらうことができます。
労災事故による怪我で後遺障害が残ってお困りの方は、ぜひ一度ご相談ください。