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アスベスト(石綿)は、天然の鉱物繊維で、「せきめん」や「いしわた」とも呼ばれています。
アスベスト(石綿)は、熱や摩擦にも強くて丈夫なため、かつては、建物の建材や自動車のブレーキライニング、耐火服や耐火手袋、セメント管等様々な製品に使用されていました。
一方、アスベスト(石綿)は、肺がん、中皮腫、びまん性胸膜肥厚、石綿肺といった健康被害をもたらすことから、現在では新たなアスベスト(石綿)製品の製造や使用は禁止されています。
もっとも、アスベスト(石綿)関連疾患は、アスベスト(石綿)にばく露してから発症までの潜伏期間が長期間に及ぶことが多く、現在でもその苦しみに苛まれている方も多くいます。
このようなアスベスト(石綿)健康被害に対する補償等としては、以下のものがあります。
労災申請
労働者としてアスベスト(石綿)にばく露する作業に従事し、それによって肺がんや中皮腫等一定のアスベスト(石綿)関連疾患にり患したと認められた方及びそのご遺族は、労災保険給付を受給することができます。
労災保険給付の対象となるアスベスト(石綿)関連疾患は、石綿肺、中皮腫、肺がん、良性石綿胸水、びまん性胸膜肥厚の5つです。労災保険給付を受給するためには、所轄の労働基準監督署に労災申請をして認定される必要があります。
また、労働者ではない場合でも、建設業等一定の事業を営んでいた方については、労災保険に特別加入をしていることがあります。労災保険に特別加入をしていれば、労働者ではなくても労災申請をすることができます。
労災認定がされて受給することができる労災保険給付には、治療をするために必要な費用の給付である療養補償給付や、被災労働者のご遺族に対する遺族補償給付等があります。
なお、遺族補償給付は被災労働者が死亡して5年で時効となります。もっとも、一定のアスベスト(石綿)関連疾患にり患されてよってお亡くなりになったものの、遺族補償給付を受ける権利が時効によって消滅してしまった場合、特別遺族給付金の請求をすることができます。特別遺族給付金の請求期限は、令和6年4月現在で、令和14年3月27日までとなっています。
救済給付
救済給付は、アスベスト(石綿)による一定の健康被害を受けた方やそのご遺族で、労災保険の対象とならない方に対して給付されます。一定のアスベスト(石綿)関連疾患にり患していれば、アスベスト(石綿)を扱う仕事をしていたかどうかは問われません。
救済給付の申請は、独立行政法人環境再生保全機構に申請書等を提出することによって行います。この申請は、環境省地方環境事務所や保険所等を通じて行うこともできます。
救済給付の対象となるアスベスト(石綿)関連疾患は、著しい呼吸機能障害を伴う石綿肺、著しい呼吸機能障害を伴うびまん性胸膜肥厚、中皮腫、肺がんです。
救済給付が認定されると、医療費や療養手当、特別遺族弔慰金等の給付を受けることができます。
健康管理手帳(じん肺)
じん肺法施行規則別表に規定されている粉じん作業に従事した方のうち、じん肺管理区分が管理2又は管理3の方が申請することができます。じん肺管理区分の認定は、じん肺健康診断を受けたうえで、労働局に申請します。
じん肺の健康管理手帳が交付されると、指定の医療機関で年に1回、定められた項目による健康診断を無料で受けることができます。
アスベスト(石綿)に関する作業も、じん肺法施行規則別表に規定されている粉じん作業に含まれており、アスベスト(石綿)にばく露することで発症する石綿肺は、じん肺の一種です。
なお、じん肺管理区分が管理2又は管理3の石綿肺で、合併症や著しい呼吸機能障害がない場合、労災や救済給付の対象とはなりませんが、後述する建設アスベスト給付金や工場型の国家賠償請求の対象疾患には該当します。
健康管理手帳(石綿)
アスベスト(石綿)の製造又は取扱いに伴いアスベスト(石綿)粉じんを発散する場所における業務に従事していた方で一定の疾患が認められる場合や一定の作業を一定期間以上従事していた方が対象となります。アスベスト(石綿)を製造し、又は取り扱う業務(「直接業務」)だけでなく、「直接業務」に伴い、アスベスト(石綿)の粉じんを発散する作業場における「直接作業」以外の業務(「周辺業務」)も対象となりえます。
石綿の健康管理手帳が交付されると、指定された医療機関で、年に2回、定められた項目による健康診断を無料で受けることができます。
もっとも、じん肺の健康管理手帳とは異なり、石綿の健康管理手帳が交付されていたとしても、建設アスベスト給付金や工場型国家賠償請求の対象疾患であるじん肺管理区分の管理2や管理3といった判断がされているわけではありません。
工場型アスベスト訴訟(国家賠償請求)
平成26年10月9日最高裁判決において、昭和33年5月26日から昭和46年4月28日までの間に、国が規制権限を行使して、罰則をもってアスベスト(石綿)工場に局所排気装置の設置を義務付けなかったことが、国家賠償法上違法であると判断されました。
この判決を受けて、アスベスト(石綿)工場で働いていた元労働者やそのご遺族が、国に対して訴訟を提起し、一定の要件を満たす場合、国は、訴訟の中で和解手続きを進め、損害賠償金を支払うことになりました。
国の和解要件は次のとおりです。
① 昭和33年5月26日から昭和46年4月28日までの間に、局所排気装置を設置すべきアスベスト(石綿)工場内において、アスベスト(石綿)粉じんにばく露する作業に従事したこと。
② その結果、アスベスト(石綿)による一定の健康被害を被ったこと。
③ 提訴の時期が損害賠償請求権の期間内であること。
これらの要件を満たすことが確認された場合、次のとおり、疾患に応じて和解により国から損害賠償金が支払われます。
① じん肺管理区分の管理2で合併症がない場合・・・550万円
② 管理2で合併症がある場合・・・700万円
③ 管理3で合併症がない場合・・・800万円
④ 管理3で合併症がある場合・・・950万円
⑤ 管理4,肺がん、中皮腫、びまん性胸膜肥厚の場合・・・1150万円
⑥ 石綿肺(管理2・3で合併症なし)による死亡の場合・・・1200万円
⑦ 石綿肺(管理2・3で合併症あり又は管理4)、肺がん、中皮腫、びまん性胸膜肥厚による死亡の場合・・・1300万円
上記に加えて、遅延損害金と弁護士費用が別途支払われます。
建設アスベスト給付金制度
建設業務に従事していた元労働者やご遺族の方などが、国が規制権限を適切に行使しなかったためにアスベスト(石綿)による健康被害を被ったとして、国家賠償法に基づく損害賠償を請求した訴訟において国の責任が認められ、令和3年6月9日、「特定石綿被害建設業務労働者等に対する給付金等の支給に関する法律」が成立し、令和4年1月19日に施行されました。同法には、建設業務に従事したことでアスベスト(石綿)関連疾患にり患した方に対する給付金制度が定められており、この給付金は建設アスベスト給付金と呼ばれています。
建設アスベスト給付金制度は以下の要件を満たす方が対象となります。
①昭和50年10月1日から平成16年9月30日までの間に、一定の屋内作業で行われた作業に係る建設業務に従事していたこと。
※吹付け作業に係る建設業務については、昭和47年10月1日から昭和50年9月30日までの間が対象。
②石綿肺(じん肺管理区分が管理2~4)、著しい呼吸機能障害を伴うびまん性胸膜肥厚、中皮腫、肺がん、良性石綿胸水といったアスベスト(石綿)関連疾患にり患したこと。
※本人がお亡くなりになっている場合には、法で定められたご遺族のうち、最先順位者からの請求が可能です。
③労働者や、一人親方・中小事業主(家族従事者を含む)であること。
なお、アスベスト(石綿)関連疾患にかかった旨の医師の診断日又は石綿肺に係るじん肺管理区分の決定日(石綿関連疾患により死亡したときは、死亡日)から20年以内に請求することが必要となります。
また、給付金の主な内容は次のとおりです。
① じん肺管理区分の管理2で合併症がない場合・・・550万円
② 管理2で合併症がある場合・・・700万円
③ 管理3で合併症がない場合・・・800万円
④ 管理3で合併症がある場合・・・950万円
⑤ 管理4,肺がん、中皮腫、著しい呼吸機能障害を伴うびまん性胸膜肥厚、良性石綿胸水の場合・・・1150万円
⑥ 石綿肺(管理2・3で合併症なし)による死亡の場合・・・1200万円
⑦ 石綿肺(管理2・3で合併症あり又は管理4)、肺がん、中皮腫、著しい呼吸機能障害を伴うびまん性胸膜肥厚、良性石綿胸水による死亡の場合・・・1300万円
※アスベスト(石綿)にさらされる建設業務に従事した期間が一定の期間未満の場合や、肺がん又は肺がんによってお亡くなりになった方で喫煙の習慣があった場合には、給付金等の額がそれぞれ1割減額されます。
会社等に対する請求
前述のように、一定のアスベスト(石綿)健康被害については、規制権限を行使しなかった国に対する責任が認められています。
もっとも、国の責任は二次的な責任とされており、全損害額のうち、一部しか請求することができません。また、対象となるアスベスト(石綿)業務の内容も限定されています。
これに対し、勤務先の会社は、安全配慮義務等の義務違反や不法行為責任が認められると、それによって被災労働者が被った損害の全部(ただし、過失相殺や損益相殺等がされることはあります)の賠償をする責任を負います。
勤務先である会社が負う具体的な義務は個別の事案にもよりますが、例えば、労働者に対して防じんマスクなどの呼吸用保護具を支給する義務、アスベスト(石綿)粉じんの付着しにくい保護具や保護手袋等を支給する義務、安全教育を行う義務等があります。
アスベスト(石綿)を取り扱う事業を営んでいた会社は、これらの義務を果たしていないことも多いため、仕事中にアスベスト(石綿)にばく露し、アスベスト(石綿)関連疾患にり患してしまった労働者が、使用者である会社に対して損害賠償を請求できることも珍しくありません。
なお、建設現場で働いていた方のアスベスト(石綿)健康被害については、建材メーカーに対して損害賠償を請求することができる場合もあります。
まずは下川法律事務所にご相談ください
アスベスト(石綿)を取り扱う仕事をされていて、石綿肺、びまん性胸膜肥厚、良性石綿胸水、中皮腫、肺がんといったアスベスト(石綿)関連疾患にり患されてしまった方は、国や会社に対して、損害賠償請求や給付金の申請をすることができる可能性があります。
もっとも、裁判は専門的な知識が必要になりますし、給付金の申請もご自身で資料を収集して提出する必要があるため、どのように進めればいいのか分からないという方も多いと思います。また、労災等が認定されなかったときでも、国家賠償請求や建設アスベスト給付金の申請、会社に対する損害賠償請求が可能な場合もあるのですが、それがどのような場合なのか、一般の方が判断するのは難しいことかと思います。
弊所にご相談いただければ、アスベスト(石綿)健康被害に対する補償等について具体的にアドバイスをさせていただきます。また、ご依頼いただければ、会社や国に対する損害賠償請求、建設アスベスト給付金の申請も代わりに行います。
アスベスト(石綿)健康被害に遭われて、国ないし会社に対する損害賠償請求や建設アスベスト給付金等の申請をされたいと考えられている方におかれましては、是非、下川法律事務所にご相談いただければと思います。